茨城県つくば市にある都市計画区域と市街化調整区域の境界に建つ診療所の建て替え計画である。敷地周辺には、畑やビニールハウス、コンビニや住宅が建ち並びそれぞれの風景を担っている。自然と日常の接点となるこの場所に建つ建築は、それぞれの風景を尊重し継承する態度が求められる。そのような環境の中で、施主は日常生活の延長にありながら豊かな自然環境に内包された敷地の特性を最大限享受し、地域に開かれた診療所になることを望んでいた。そこで我々は、土地の一部として継承した既存基礎を手がかりに、診療棟とセミナー棟を周辺環境に寄り添うように配置し、大きな円弧屋根をかけることで、ランドスケープと一体になりながら敷地全体に多様な環境をつくり出すことを試みた。
既存基礎は、調査により現行法に対する仕様規定に満足することが確認されたため、地盤を含めた土壌環境への配慮、また資源の再利用の観点から活用することにした。新設基礎は、独立基礎を採用し鉄骨梁を土台とすることで、基礎・地盤改良工事を最小限にし地盤面より棟を少し浮遊させることで意匠的にも環境的にも寄与している。円弧屋根は、2つの棟をつなぐように内外にかけられている。内部空間に対し、県産材として採用されたヒノキの無垢フローリングとともに、外部環境をやさしく内包する豊かな居場所をつくっている。また、外部空間に対し、訪れた人々を優しく迎え入れるゲートの役割を担いながら、前庭・中庭・奥庭に多様な居場所をつくっている。診療棟とセミナー棟をつなぐアプローチ土間、90角のヒノキ材を連立させた壁、畑への視線の抜けを生み全開放できる木製建具、これらのエレメントが重なり合うことで、敷地の内外・建物の内外をつなぐ豊かな環境をつくっている。土地をリノベーションすることで、日常のランドスケープと一体となり豊かな自然環境に内包される、地域に開かれた新しい建築の成り立ちを目指した。